普通の半導体レーザ光は、半導体のへき開面から射出される。これとは別に、面発光型半導体レーザ(VCSEL)という、半導体基板面と垂直に光が出力されるタイプのものがある。
VCSELは次の特徴がある。
光ビーム放射角が狭い。
低電流で動作する。
2次元集積化が容易であるため、並列光リンクとして利用できる。
産業応用などのための実用的なレーザー装置として固体レーザーが注目されている。特にLDを励起光源として用いたLD 励起固体レーザーは、高出力、高効率、長寿命にすることが可能であり、盛んに研究開発がされている。中でもYb:YAG レーザ結晶はLD 励起が可能であり、Yb:YAGレーザーは、高効率、超短パルス、高出力の3つの特徴を実現できる可能性を秘めている。
Yb:YAGレーザーの長所
レーザー発振波長と励起光の波長が近いことより原子量子効率が高く、励起状態吸収などのレーザー発振サイクル以外のエネルギー遷移が少ないため高効 率なレーザー発振が可能である。また、蛍光スペクトル幅が10 nm 程度と広いためにサブピコ秒の超短パルス光の発生が可能である。そして、発熱率が低く熱伝導率が高い優れた熱特性と、蛍光寿命が長いことにより高出力特性 が得られやすい。これら3つの特性を同時に実現できるLD 励起全固体レーザとして、Yb:YAG レーザの開発はきわめて重要である。
Yb:YAG結晶の特性の詳細は、Yb:YAGレーザ結晶の分光特性、Yb系レーザ媒質の比較にて検討する
長所まとめ
レーザ発振波長と励起光の波長が近い→高効率なレーザ発振が可能
蛍光スペクトル幅が広い→サブピコ秒の超短パルス光の発生が可能
発熱率が低い→優れた熱特性
蛍光寿命が短い→高出力特性
固体レーザーの媒質は希土類イオンをドープした結晶またはガラスであり、小型で大出力を得ることができる。固体レーザーでは光で反転分布を形成するため、媒質には高い透明性、耐熱性、熱伝導性、低温度依存性が求められている。
代表的な固体レーザーはNdの3価のイオンNd3+をYAG (Yttrium Aluminum Garnet:Y3Al5O12) 結晶にドープしたものを媒質としたNd:YAG レーザーである。固体レーザーは光励起であり、現在の励起光源のほとんどはLD である。LDの高出力化、高効率化、長寿命化が達成される以前は、励起光源として安価で高出力が得られる希ガスフラッシュランプが用いられていたが、フ ラッシュランプ励起方式は発光スペクトルが紫外域から赤外域の広範囲にわたるため、レーザー媒質の吸収スペクトルとの整合性が悪くレーザー媒質への熱負荷 も大きいという欠点があった。一方、LD は発光スペクトルが狭いため、媒質の特定の吸収遷移のみを選択的に励起することが可能で、高い吸収効率が得られる。また、LD はコヒーレント光であるため、集光性に優れ高密度励起が可能といった利点がある。
半導体レーザーの媒質は固体であるが、励起方法とエネルギー準位が他の固体レーザーと根本的に異なるため、普通は固体レーザーと分けて考えられる。 半導体レーザーはダイオードの一種であり、ダイオードに流れた電流の一部が光に変換されレーザー光となる。このため、半導体レーザーはダイオードレーザー やレーザーダイオード(Laser Diode:LD) と呼ばれる。一般的なLD の構造(シングルエミッタ) を図1に示す(基盤や電極、コンタクト層などは省略してある。
励起方法に化学反応を利用するのが化学レーザーである。化学レーザーの出力は他のレーザーと比べ非常に大きいため、1970 年代から核融合炉、ロケット推進、弾道ミサイル防衛などへの応用を目指した研究が盛んに行われてきた。最も実用的な化学レーザーは重フッ化水素 (Deuterium fluoride:DF) レーザーと、化学酸素ヨウ素レーザー(Chemical Oxygen Iodine Laser:COIL) である。アメリカが開発したCOIL は数メガワットの出力があり、弾道ミサイル防衛用のレーザーとして期待され、実験が行われている。しかし、装置が大型で化学反応によって大量のハロゲン化 合物を放出するため、オゾン層への悪影響が懸念されており、弾道ミサイル防衛用途でも固体レーザーへの転換が検討されている[1]。また、COIL を発振させるためには塩基性過酸化水素を調合しなければならないが、これは発熱を伴うため、冷却装置を使いながらゆっくりと行う必要があり、産業用途とし て実用化されていない。
2009 年には、日本で新たな化学レーザー媒質として、アミン系全気相型化学ヨウ素レーザーが実現された。
COIL搭載U.S.Air Force Airborne Laser AL-1A(ABL)
希ガスレーザー(noble gas ion laser)の媒質は、放電によってイオン化されたアルゴンイオン(Ar+)やクリプトンイオン(Kr+) である。このため、希ガスレーザーは希ガスイオンレーザーとも呼ばれる。Ar レーザー(Ar イオンレーザー) の代表的な発振線はブルー(488.0nm) とグリーン(514.5nm)、Kr レーザー(Kr イオンレーザー) の代表的な発振線はレッド(647.1nm、676.4nm)、Ar とKr の混合気体の発振線は450~670nm である[1]。希ガスレーザーの媒質と波長を表1にまとめた[2,3]。
表1 : 希ガスイオンレーザーの媒質と波長。
()内の数字は発振線の本数を表す
イオン 帯域 波長
Ar+ 紫外
可視
赤外 275.4-390.8nm (16)
408.9-528.7nm (13)
1090nm
Kr+ 紫外
可視
赤外 337.5-356.4nm (3)
406.7-676.4nm (13)
752.5-858.8nm (5)
希ガスレーザーは比較的高出力(Ar レーザーで25W 程度[4]) であるため、レーザーショーやレーザーディスプレーなどのエンターテインメントや加工、研究に用いられる[5]。しかし、発振に希ガスイオンを作る必要が あるため、高出力レーザーでは大電流が必要である。
気体レーザー(gas laser)は気体分子をレーザー媒質として用いたものであり、一般的な励起方法は気体を封入したガラス管 (あるいはセラミック管) への放電である。 放電によって加速された電子は気体レーザー媒質中の原子 (または、イオンや分子) にエネルギーを与え、原子を励起準位にし、反転分布を形成する。
色素には非常に多くの種類が存在し、新しい色素の合成も可能であるため数百種類の有機色素でレーザー発振が可能とされている。色素レーザーの媒質で代表的なのはローダミン6G (Rhodamine 6G:R6G) であり、レーザー分光や赤ら顔治療に応用されている。
色素分子は非常に広い発光スペクトル(約320nm~1200nm) を持っているため波長可変レーザーとして用いられる。CW とパルスの発振形態が可能である。発光スペクトルが広いためモード同期超短パルスレーザーとしても使われている[1,2]。しかし、媒質の寿命が短い、出 力が制限される、といった欠点があるため、最近ではチタンサファイアレーザーなどの波長可変固体レーザーに置き換えられつつある。更に、全世界的な RoHS 規制適合製品への移行要求による製造販売中止の例もある
液体レーザーは液体が媒質のレーザーである。液体レーザーの媒質で最も用いられているのが色素(dye) 分子を有機溶媒(アルコール:エチレングリコール、エチル、メチル) に溶かした有機色素であり[1]、実用化されている液体レーザーのほとんどは有機色素を媒体とした色素レーザー(Dye Laser) である。
色素レーザー
色素は非常に多くの種類が存在し、新しい色素の合成も可能であるので、数百種類の有機色素でレーザー発振が可能とされている。色素レーザーの媒質で代表的なのはローダミン6G( R6G : Rhodamine 6G )であり、赤ら顔治療に応用されている。
色素分子は非常に広い発光スペクトルを持つので、色素レーザーは波長可変レーザーとして用いられる。CWとパルスの発振形態が可能で、ナノ秒程度の パルスはフラッシュランプやQスイッチレーザーで励起される。また、発光スペクトルが広いのでモード同期超短パルスレーザーにもなる。しかし、媒質の寿命 が短いこと、出力が制限されるという欠点があるため、最近ではチタンサファイアレーザーなどの波長可変固体レーザーに置き換えられつつある。また、全世界 的なRoHS規制適合製品への移行要求による製造販売中止の例もある。
特徴
波長:紫外~赤外( 約320nm~1200nm )
発振形態:CW、パルス
励起方法:フラッシュランプ、レーザー( YAG,エキシマ )
応用:レーザー分光、医療(赤ら顔治療)
長所
発振波長域が広い
媒質の交換が容易
短所
媒質の寿命が短い
溶媒が有毒性をもつ